春がやってまいりました(季節的な意味で)
しかしまあこの本が面白い。
戸部新十郎
『剣士の名言』
言うまでもなく、江戸期の剣士たちの名言を集め、戸部氏が各剣士のエピソードと共に分かりやすく解説している。
勝負無し。勝つを求めず。勝つこと自然なるものなり。心休まれば自由なり。
心形刀流 開祖 伊庭是水軒
同じことを僕が言えば完全な負け惜しみだが、一流を立てた剣術家の言葉だから重みがある。
勝ち負けは 長き短き変わらねど さのみ短き太刀な好みそ
新当流 開祖 塚原卜伝
こ、これは、男性器の事か?短くたっていいじゃないか・・・・テクニックがあれば、という話ではなく、「弘法筆を選ばず」と同じく、モノ、いや物よりも己の技術を磨け。という意。
あれ、やっぱアレの話でもあるぞ。
それはさておき、僕が一番気に入ったのが、
神力を与えよ (中略) 千に一つ、負くるにいたりては 神前にて腹を十文字に切り はらわたを繰り出し 悪血をもって神柱を染め 悪霊となりて 未来永劫 当社の庭を草野となし 野干のすみかとなすべし
一羽流 土子泥之助
本を元に解説させていただきたい。
その昔、一つの道場にこの土子なる剣士と岩間小熊、そして根岸兎角って3人の剣士がおりました。三人は同じ師を持っていましたが、ある日師が病に伏し、それに伴い門下生が次々と離れて行ったそうな。
それでもこの三人は師匠への義理を捨てず、最後の時まで師匠の下にいようと誓ったわけであります。ところがどっこい、ある日、根岸君が脱走します。
土子君と岩間君は「あのヤロー!恩知らずめ!今度会ったらボコボコにしてやる!」と悔しがります。師匠の死後、ある噂が彼らの耳に。
「江戸では微塵流とかいうすごい流派があるらしいぜ~。根岸兎角とかいう奴が始めたそうな」
それを聞いた土子&岩間コンビ。そりゃもうブチギレでございます。
2対1では卑怯だということで、クジ引きの結果、岩間君が江戸に向かいました。
で、土子君は何をしたかというと、神社に手紙を送ったのです。
で、その内容が前述の「
はらわたを・・・」です。
土子君、神社の神様に何を言いたかったかというと、
「俺たちに力を与えろ!もしも負けたら、なんとしてでも生き残って、神社で腹を切って、はらわたをえぐりだしてそこらへん血だらけにしてやるからな!そんで悪霊になって神社をこの先いつまでも呪い続けて、魔物の住みかにしてやる!」
土子君、神社、というか、神様を脅迫したんですね。
ちなみに土子、岩間両氏とも、崇敬してやまない神は送付先である鹿島神宮の神様。
そんな神様に脅迫状を送った土子泥之助、なんともはや。
「神に身も心も捧げる」、を超越すると、「神もろとも朽ち果てる」になるのだろうか。
で、岩間と根岸、江戸でぶつかります。
小奇麗な朱子の袴で現れた江戸の剣士、微塵流開祖、根岸兎角。
対するは、常陸の国からはるばる江戸へ、ネズミ色のみすぼらしい袴で登場、一羽流、岩間小熊。
岩間君が根岸君をコテンパンにしたらしい。
神様、ちゃんと脅迫状を読んだらしい。
しかしまあ、寛容な神道ならではの行いかもしれないが、戸部氏が書いてるとおり、神を脅迫するほどの「不退転の決意」が勝利をもぎとったということもあるかと。
捉えようによっちゃお馬鹿な剣士にも見えるが、それもまた魅力的だ。
最後に、宮本武蔵の「恋愛」にかんするお言葉を。
恋をせば文ばしやるな歌よむな 一文たりとも銭をつつしめ
宮本武蔵
恋をしてるならば、いい人がいるならば、ラブレターなんぞ書くな、恋愛の歌なんぞ詠むな、とにかく貯蓄しろ。貯蓄。
と仰る。
む、武蔵・・・・。
60回立会い、無敗の男が、この言葉。宮本武蔵ってほんとにすごいんですね。