小説は読むほうだ。
「え、小説とか読むんや?」
読むがどうした、と問いたくなるリアクションをされたこともある。
「小説とか読めるんや?」 と問われているような、勝手な被害妄想まであった。
それともなにか、エロ本と新聞のテレビ欄しか読んでそうにないと、そう言いたいのか、ん、そうなのか、エロ本を読んで処理された欲求の賜物を新聞のテレビ欄で拭き取っていると、そう言いたいのか、ん?ん?ん?
字くらい読めるわい。しかし、活字離れが叫ばれる中、同年代の人が読書家と分かった時なんかは、結構嬉しかったりする。「あれいいよ、絶対買ってみて!」「これほんまいいで!ちょ、貸したるわ!」などと、本でなければ大人のオモチャを貸し借りしているようではあるが、こういう情報交換は面白い。
で、僕が紹介したい作家。
倉阪鬼一郎。
愛書家と話す機会には必ず推薦する作家だ。若干のひいきもある。なぜか、
伊賀上野出身だからだ。
正直、おとなり名張の江戸川乱歩より僕の中では偉大だ。
しかしながら、倉阪氏の知名度は伊賀ではそう高くない。
伊賀の方々に聞きました、同郷の倉阪鬼一郎氏の活躍をどう思われますか?
「誰それ?知らん。」
といったところだろう。
倉阪氏の作品は、ミステリーが多いが、僕が氏の作品の中で好きなのはミステリーではなく(失礼か?)、僕が勝手に名づけたジャンル、「ズッコケ・ホラー」だ。
ズッコケと言っても作品がズッコケるようなものという意味ではない。主人公がズッコケてしまうようなアホだったり、なにやってんだこいつはと、含み笑いをしてしまいたくなるバカだからだ。中にはアホの領域を超えて完全に狂っている主人公も多い。
少しネタバレにはなるが、
カタヤキで人を撲殺しようとするバカや、招き猫に気を取らせてその間に前妻を殺そうとするアホなど、行動の意味そのものが分からないズッコケ殺人鬼が暴走する。
そういう、「本人の頭の中だけで完成している完全犯罪」を、止めてくれる者をなくした主人公が遂行しようとする様は本当に面白い。
あと、倉阪氏の作品は、随所に伊賀が現れる。伊賀者の僕としては、ちょっとした固有名詞でも、あ、これはあれのことだとすぐ分かってしまう。
『学校の事件』という作品に至っては、
僕の高校の担任の名前が出てきた。ただの偶然と思いきや、○○高校の××という現れ方で、校名も類似しており、また担任は作家とも知り合いがいたようなので倉阪氏とも繋がりがあったかもしれない。
田舎、こと伊賀地方独特のしがらみや雰囲気を熟知していて、伊賀の人間なら、読んでいて「こういうやついるいる!」と思ってしまうこと間違いなし。
上記『学校の事件』、
そして、
『田舎の事件』
『不可解な事件』
の三作品、いずれも極上のズッコケ伊賀ホラーなので、興味のある方は是非。