久しぶりにAVでも借りようかと思った梅雨の夕刻。いきなりなんだって、いやただAVを借りようと思っただけで、それ以上でも以下でもない男の小さな衝動。あらお下品ねって、しかし貴女の身近な殿方も昨晩見ているかもしれないわけで、どんなに下ネタを言わない人であろうと、どんなに世間的に紳士な方であろうと、AVは見ておられる。いやあの人はそんなもの絶対見ない・・・・・そんなのは幻想だ。今日すれ違った男の98%以上は見ているし、そのうちの少なくとも三分の一は昨晩も見ている。
どんなに立派な人でも見ている。ノーベル賞を取った人だって見ている。
とまあこのブログを読んでくれている淑女の方々の、その身近な男性の名誉をこうも軽く毀損していいものかどうか分からないが、とりあえず僕は車に乗ってローカルなビデオレンタル店に向かう。この店はチェーンを持たぬ「地元のおっさんが家業継がずにおっ建てました」的な、小さなレンタルビデオ店だが、地元民はよく利用する。しかし以前はこの店も密かにメディアに露出していた。
ノリノリ天国という番組をご存知か。おそらく男性諸君なら知らぬ者はいないだろう。これは数年前までサンテレビで放送されていた番組なのだが、早い話がエロ番組であった。深夜番組にはイヤラシイものがたまにあるが、ノリノリ天国は完全にエロオンリーの番組なのだった。司会は西川のりお、レギュラー芸人がしましまんずというもはや忘れ去られつつあるコンビで、「おめえら仕事ねえならエロ番組でもやれ」といわんがばかりの面子。そこにあまり有名ではないAV女優が出演していて、ギャラという点でも低予算な番組だった。
しかし、関西地区の男子中高生は土曜になると鼻息ムフムフ、ノリ天まだかノリ天まだかとテレビの前で興奮していたのは間違いない。僕も中学の頃、土曜の夜になると、電気を消した部屋でテレビをつけ、音量は超小さめ(もしくはイヤホン)、まわりに神経を張り巡らせながらも目ん玉はテレビに釘付けだった。
今思い出すとくだらない企画のオンパレードで、「アダルトビデオでじゃんけんぽん」、「おしえてあかひげ先生」、「バクシーシ山下の写真講座」、などなど、見てない人には一体全体なんのかこれはという内容予想不可能な企画の目白押しだった。
そんな中でも「今週のオススメビデオ」(だったと思う)ってコーナーを、僕をはじめ全国の馬鹿中高生は押さえきれぬリビドーをこらえて見入った。ちなみにコーナーのコールの際は、AV嬢が「次は皆さんお待ちかねの!」と前置きして、「ビデオ」の部分は「ビ・デ・オ」と言いながら、カメラはAV嬢の口元をアップしていた気がするのだが、記憶違いか?
話はだいぶズレているが、その「今週の~」のコーナーが終わると、「本日紹介したビデオは以下のお店で扱っています」という言葉と共に、全国のビデオレンタル店の店名が流れていく。で、その際に
一番最初に出てくる店が、このレンタルビデオ店なのだ。しかもこの店は一度「アダルトビデオでじゃんけんぽん」のロケでも使われている。名誉なのか不名誉なのか。
店に到着した僕は、一通り普通の映画を物色した後、ロケにも使われた成人コーナーへ。その際、あ、そうだ、と、この世の中でもっともどうでもいいひらめきをする。それは「瀬名さくら」のビデオにしようというものだった。この瀬名さくらなる女性はもちろんAV嬢で、僕が、「好きなAV女優は?」と聞かれれば、「望月ねね」もしくはこの女性である。どちらの女優も知人から大バッシングを受け、あんな女どこがいいのだと評判は良くなく、そしてB専ポイントが上昇する。
やはり世間的にもキワモノなのかそれとも落ち目なのか、瀬名さくらのビデオは一本しかなかった。とりあえずそのビデオのカードを取り、レジへ向かおうとする。レジの途中で会員カードを財布から出そうとした時、財布を忘れているという事実を始めて知る。エロビデオ借りようと町まで出かけたが、財布を忘れて愉快じゃない俺。サザエさんはホントにポジティブだ。たかがAV一本なんだが、見るという心意気を持っていた僕は意気消沈した。不幸中の幸いなのはレジに置いてから気づくという赤面度数85の悲劇を免れたということ。店員は若い女性なんで良かった。「さんざん成人コーナーで選んで財布忘れてる奴」というレッテルを貼られずに済んだ。
僕は当然何も借りず帰った。車の中には140円だけ小銭があった。缶コーヒーを買って山道のてっぺんで駐車して飲んだ。雨上がりだけどいい景色だった。
帰宅後、AVを見るはずだった部屋で夢野久作の『キチガイ地獄』を読んだ。オチがまるで今日の僕みたいだった。
追記:
ノリノリ天国の英語訳は「Go!Go!Heaven!」である。タイトルロゴの下にそう書かれていた。SPEEDの曲にそんな曲があったが、サビが「ノリ!ノリ!天国!」だったわけだ。なるほど解散した理由が分かった。